• 熊本・健軍駐屯地に12式長射程ミサイル配備へ 防衛省が反撃能力の本格運用へ一歩

熊本・健軍駐屯地に12式長射程ミサイル配備へ 防衛省が反撃能力の本格運用へ一歩

2025.07.29

目次

防衛省が健軍駐屯地を最初の配備先と調整、2025年度末の配備見込み

国産の長射程ミサイル、地発型12式が熊本へ配備方針

  • 2024年7月28日、複数の政府関係者による情報として、防衛省が「12式地対艦誘導弾能力向上型」(地発型)を熊本市の陸上自衛隊・健軍駐屯地へ配備する方針で最終調整していることが判明した。配備は2025年度末を見込み、これは日本が初めて本格的な「反撃能力」(敵基地攻撃能力)を具体的に保有する体制へ移行することを意味する。
  • 配備される12式ミサイルは、従来型を改良した「能力向上型」であり、地上発射(地発型)の形式。推定で1,000kmの射程を有し、九州から中国大陸の一部まで届く能力があるとされる。運用は、健軍駐屯地を拠点とする第5地対艦ミサイル連隊が担う予定だ。

今後の展開:湯布院・勝連にも配備計画

  • 防衛省は来春以降、大分県の湯布院駐屯地にも同型ミサイルを配備する計画を進めており、さらに将来的には沖縄県うるま市の勝連分屯地への展開も視野に入れている。南西諸島方面における中国の軍事的活動が強まる中、政府は抑止力の強化を図る意図があるとみられる。
  • 12式能力向上型は、スタンド・オフ防衛能力の一環として開発が進められており、航空機や艦艇、地上から敵目標を攻撃できるよう射程と精度が強化された。岸田政権は2022年末の「安保3文書」改定で反撃能力保有の方針を打ち出しており、今回の配備はその具体的なステップとして位置付けられる。

健軍駐屯地の役割と周辺地域の影響

  • 健軍駐屯地は熊本市東区に位置し、西部方面隊の中核的存在である。これまで地対艦ミサイルの訓練部隊が所在していたが、今回の配備により「反撃能力の実運用基地」という新たな役割を担うことになる。これは熊本県にとっては防衛体制上の強化を意味する一方で、地元住民からは「標的にされるリスクが高まるのでは」といった不安の声も上がっている。
  • 九州は複数の原子力発電所を抱える地域でもあり、配備されるミサイルが他国にとっての攻撃対象となる場合、民間施設や生活圏への波及リスクが懸念される。これまでの説明では「抑止力の向上」が強調されているが、戦略兵器の展開には冷静なリスク評価が求められる。

反撃能力と専守防衛の緊張関係

  • 「反撃能力」は防衛省によれば、「相手が攻撃を開始した際に、その攻撃を継続させないために相手の能力を無力化する手段」とされているが、その運用が「敵基地先制攻撃」と誤解される可能性も指摘されている。今回の12式配備も、事実上は敵の中枢やミサイル基地を攻撃できるポテンシャルを持つとされており、「専守防衛」の原則との整合性については国会でも議論が続いている。
  • とくに平和安全法制の整備以降、自衛隊の任務や装備が「他国の戦争への巻き込まれ」を助長しないかという懸念も根強い。今回のように射程が長い兵器を国内に配備すること自体が、国際的な抑止メッセージとされる一方で、実質的には軍事バランスの変動を招く側面もある。

住民説明と民主的プロセスの重要性

  • ミサイル配備に関する住民説明会やパブリックコメントは、現時点で開催予定が明らかにされていない。防衛に関する政策は安全保障上の機密も含むため、情報公開に制限があるのは事実だが、配備先の地域住民が排除される構図になれば、「民主主義的決定プロセスの欠如」が問われることになる。
  • とくに九州南部は、過去に国策としての原発立地・自衛隊基地集中が進められてきた経緯があり、今回の配備も「地方をリスクの押し付け先にしている」との批判につながりかねない。住民の安全と国の安全保障をどうバランスさせるかは、いま改めて問われている。

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